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バラの庭に、奇跡の花塔が現れた――ジギタリスとイングリッシュガーデンの魔法
英国の庭園写真で「あの背の高い穂状の花、なんだろう?」と思ったことはありませんか?
バラのまわりに静かに佇み、庭に縦のリズムと奥行きを生み出すその花こそ、ジギタリス(フォックスグローブ)です。 イングリッシュガーデンには欠かせない名脇役ですが、バラと合わせることで、実は主役にも化けてしまう、そんな魅力たっぷりの植物をご紹介します。【1】英国の庭から来た”花塔”の魅力
ジギタリスは、ヨーロッパを原産とする植物で、細長い茎の上に、小さな釣り鐘型の花を下から上へとびっしり並べて咲かせます。
その姿はまるで、空へ向かって伸びる塔のようで、草丈は品種にもよりますが、大きなものでは1メートルを優に超えます。 花色は紫、ピンク、白、クリーム色、アプリコットなど豊富で、花冠の内側には濃い色のぽつぽつとした斑点模様が入ります。 この斑点、実はミツバチが蜜のありかを見つけるための「道しるべ(ハニーガイド)」なのだそうです。ミツバチはこの模様を頼りに花の奥へ潜り込み、受粉を助けてくれます。自然の精巧さに、思わず感心してしまいますね。 英名の「フォックスグローブ(Foxglove)」は、「キツネの手袋」という意味です。ケルト神話に由来するこの名前には、森に住む妖精たちが、こっそり鶏小屋へ忍び込もうとするキツネにこの花を手袋として与え、足音を消す魔法をかけたという愛らしい伝説が込められています。 日本語の和名「キツネノテブクロ」は、この英名をそのまま訳したものです。花冠の内側の斑点は、西洋では「妖精が付けた指の跡」だと語り継がれてきました。なんとも詩的な想像力ですね。 属名の「ジギタリス(Digitalis)」は、ラテン語で「指(Digitus)」を意味します。花の形が指サックや手袋の指の部分にそっくりなことから名付けられたもので、じつはパソコンやスマートフォンでおなじみの「デジタル(Digital)」とまったく同じ語源を持っています。 指で数える、という意味から来ているわけですね。庭で育てながら、そんな言葉の旅を楽しんでみるのもジギタリスならではの楽しみ方です。 こうした豊かな物語と背景を持つジギタリスは、中世のヨーロッパから現代に至るまで、イングリッシュコテージガーデンを代表する花として愛され続けてきました。バラ、デルフィニウム、ゲラニウムと並んで、英国の庭には欠かせない存在です。【2】バラと組み合わせると、なぜ「絵になる庭」になるの?
ジギタリスとバラの組み合わせは、イングリッシュガーデンにおける最も古典的で、最も美しいコンビネーションのひとつとして知られています。
「なんとなく相性がよさそう」という直感だけでなく、じつはこの組み合わせには、四つの明快な理由があります。理由その1 形のコントラストが庭に奥行きをつくる
バラは、株の中段から下にかけてボリュームをもち、丸くやわらかな花を水平方向に広げるように咲きます。それに対して、ジギタリスの花穂はまっすぐに垂直へと伸びるシャープな「塔」の形をしています。
この「丸と線」「横と縦」の対比こそが、庭に奥行きとリズムを生み出す秘密です。 バラだけが並ぶ花壇は、どうしても横一列の平面的な印象になりがちですが、そこにジギタリスの花塔が数本加わるだけで、空間が上へと広がり、庭全体が急に立体的に、そして「絵」のように見えてくるのです。理由その2 開花時期がぴったりと重なる
バラの花期は春から初夏(5-6月)が最も華やかになりますが、ジギタリスもちょうど同じ時期に見頃を迎えます。
開花時期が合わなければ、いくら相性がよくても色の共演はできません。 その点、このふたつはカレンダーの上でも「共演」がほぼ確実に実現します。バラのピンクや赤に、ジギタリスの紫や白の花穂が寄り添う風景は、初夏の庭の最高の贈り物と言えるでしょう。理由その3 土の好みがまったく同じ
じつはこれが、最も実用的な理由かもしれません。
バラが好む土壌の条件は「有機質に富み、水はけがよく、適度な保水性がある肥沃な土」です。そしてジギタリスも、まったく同じ環境で最もよく育ちます。 バラのために整えた花壇がそのままジギタリスにとっても最適な土壌になるわけです。「バラを育てられる庭なら、ジギタリスも育てられます」――これは、初めてジギタリスに挑戦する方へ、自信を持ってお伝えできる言葉です。理由その4 バラの根元を守ってくれる”生きたマルチング”
少し意外なメリットもあります。ジギタリスは、花茎を伸ばす前の時期に、地面を這うように大きな葉を広げたロゼット(放射状の葉の集まり)を形成します。
この葉が地表をしっかりと覆うことで、真夏の直射日光から土壌を守り、水分の蒸発を防いでくれる効果があるのです。 バラにとって根元の乾燥は大敵ですから、このさりげない「保護」はとてもありがたい働きといえます。配置のヒント
バラとジギタリスを組み合わせるときは、バラの株の後方や株間に、ジギタリスを2-3本まとめて植えるのがおすすめです。
バラに少し寄りかかるように花塔が伸び、全体が自然にひとつの「花のまとまり」として見えてきます。 背景に壁や生垣、常緑低木などがあると、ジギタリスのシルエットがより際立ちます。白壁の前に紫のジギタリスとピンクのバラ――そんな組み合わせは、まさに英国の庭そのものの風景です。【3】イングリッシュガーデンでの使い方バリエーション
ジギタリスの魅力は、バラとの組み合わせにとどまりません。庭のどこに、何と並べて植えるかによって、まったく異なる表情を見せてくれるのが、この花のおもしろいところです。
ボーダー花壇の「後方」か「中央」に群植する
花壇の手前から順に草丈の低い植物、中くらいの植物、背の高い植物を並べる「レイヤー構造」は、イングリッシュガーデンの基本です。
ジギタリスは草丈があるので、花壇の後方か中央に配置するのが自然です。このとき、1本だけ植えるよりも、同じ株を3-5本まとめて「群植(グループ植え)」にするほうが、ずっと存在感が増します。 背景に壁やフェンス、常緑低木などの「しっかりした背景」を置いてあげると、ジギタリスのシルエットが際立ち、花穂の美しさが最大限に引き出されます。木漏れ日の半日陰を活かした「ウッドランド風の一角」
じつはジギタリスは、野生状態では森の林縁や木陰の草地に自生しています。つまり、庭木の足元や、建物の北側など「直射日光は当たらないけれど、明るい」という半日陰の場所でも、のびのびと育ってくれます。
日当たりが十分でないために持て余していたスペースに、ジギタリスを主役として据えてみましょう。足元にはシダ類を敷き詰め、隣にカンパニュラ(釣り鐘型の青紫色の花)やアリウム(球形の紫色の花)を添えると、英国の森の中にあるような、ナチュラルで奥深い雰囲気の一角が生まれます。 白い小花が霞のように広がるホワイトバレリアンとの組み合わせも、おすすめです。日陰になりがちな場所を白い花が明るく照らし、そこにジギタリスの花塔が立つ様子は、どこか幻想的で息をのむ美しさがあります。コンテナや寄せ植えでも楽しめる、コンパクト品種
「ジギタリスは大きくなりすぎて、鉢植えには向かない」と思っていませんか?
たしかに、草丈1メートルを超える伝統的な品種では、鉢植えは難しいのが正直なところです。 ところが近年、草丈40-50センチほどにコンパクトにまとまる品種が次々と登場しています。「ダルメシアン」シリーズはその代表格で、テラスや玄関先の大きめのコンテナに植えても、十分な存在感を発揮してくれます。 寄せ植えを楽しみたい方には、中心にコンパクトなジギタリスを据え、その周囲に白い小花のオルレア(ホワイトレースフラワー)を散らし、縁からこぼれるようにオーナメンタルグラスを配置する組み合わせがおすすめです。 風が吹くたびにそれぞれの植物が異なる動きを見せ、野の花を集めたようなナチュラルで動きのある寄せ植えが完成します。コンテナを使えば、ベランダやテラスでも本格的なイングリッシュガーデンの雰囲気が楽しめます。【4】育て方の基本――意外と奥深い「二年草」の性質
ジギタリスは、一度育て方のコツをつかんでしまえば決して難しくない植物です。ただ、少しだけ他の花とは異なる「性質」を持っているので、そこを知っておくだけで、ぐっと上手に育てられるようになります。
ジギタリスは「二年草」って、どういうこと?
多くのジギタリスは「二年草(バイアニュアル)」という性質を持っています。
これは、1年目は花を咲かせずに葉だけを広げて栄養をたくわえ、冬の寒さを経験してから、2年目の初夏にはじめて花を咲かせる、というサイクルのことです。 「せっかく育てたのに、今年は花が咲かなかった……」というのは、この性質を知らずに1年目の株を見て失望してしまうケースが多いようです。1年目はじっと根を張り、力を蓄えている最中なのです。 冬の寒さを経験することで花芽が分化するこの仕組みを「春化処理(バーナリゼーション)」と呼びます。「越冬させてあげることが、翌年の豪華な開花につながる」と覚えておいてください。 反対に、寒さを避けようと暖かい室内に取り込んでしまうと、この春化処理が行われず、翌年も花が咲かないままになってしまうことがあります。防寒対策と、「寒さを経験させること」のバランスが、二年草を育てる上での大切なポイントです。初心者には「一年で咲くF1品種」がおすすめ
「でも、2年待つのはちょっと……」という方には、種まきした年に花が咲く最新のF1品種(一代交配種)がぴったりです。
「キャメロット」シリーズや「ダルメシアン」シリーズなどは、バーナリゼーションを必要としないよう品種改良されており、春に種をまいて、その年の夏から初秋には開花を楽しめます。 花壇の計画が立てやすく、育て方もシンプルなので、ジギタリス初挑戦の方にはぜひこちらから試してみることをおすすめします。日当たりと土について
ジギタリスは、日当たりのよい場所から、明るい半日陰まで幅広く対応できます。
ただし、強い西日が長時間当たる場所は苦手ですので、午前中によく日が当たり、午後はやや陰になるような場所が理想的です。 先ほどもふれたように、「バラが元気に育つ環境なら、ジギタリスにも最適」と考えていただいて問題ありません。 土は、腐葉土や堆肥をたっぷりと混ぜ込んだ、水はけのよい、有機質に富む土を好みます。粘土質で水はけの悪い場所はとくに苦手で、冬の過湿は根腐れの原因になりますので注意が必要です。 地植えの場合は少し高めに土を盛った「高畝(レイズドベッド)」にして水はけを改善してあげると、ぐっと育ちがよくなります。水やりと肥料
地植えの場合、根がしっかり張った後は、基本的に雨水だけで育ちます。極端に乾燥した日が続くときだけ、水やりをしてあげましょう。
鉢植えの場合は、土の表面が乾いたらたっぷりと与えるのが基本ですが、受け皿に水がたまったままにならないよう気をつけてください。 肥料は、植え付け時に緩効性の元肥を施しておけば、それほど神経質になる必要はありません。花がら摘みで株を長く楽しむ
花が終わった花穂をそのままにしておくと、株が種を作ることにエネルギーを使い、株の勢いが落ちてしまいます。花がら(咲き終わった花穂)をこまめに摘み取ることで、株の体力が温存され、長く元気な状態を保てます。
また、花穂を根元近くで切り戻すと、わき芽から新しい花茎が伸び、二番花を楽しめることもあります。寒冷地での注意点
北海道や長野県のような寒冷地では、越冬に少しだけ気を配る必要があります。
ジギタリスが冬に傷む原因の多くは、「絶対的な寒さ」よりも「過湿による根腐れ」と「乾いた寒風による脱水」です。 対策としては、冬の間は水やりをほぼやめること(晴れた日の午前中に、葉が乾きすぎていれば少量だけ与える程度)、鉢植えの場合は軒下や雨の当たらない場所に移動させること、そして必要であれば霜よけ用の不織布で株を軽く覆ってあげることが有効です。「寒さそのもの」よりも「濡れたまま凍ること」を防ぐ意識を持つと、越冬がうまくいきます。【5】知ると庭がもっと楽しくなる、ジギタリストリビア
植物の名前や歴史を少し知っているだけで、庭で花を眺める時間がぐっと豊かになります。ジギタリスには、そういう「知る喜び」を届けてくれるエピソードが、たくさん詰まっています。
心臓病の特効薬を生んだ花
ジギタリスは、近代医学の歴史を動かした植物でもあります。
18世紀後半の英国で活躍した医師ウィリアム・ウィザリングは、瀕死の心不全患者がジギタリスを使った民間薬で劇的に回復するのを目にし、その有効成分を突き止めました。 彼は10年をかけて丁寧に臨床試験を重ね、1785年にその成果を著書として出版しました。ジギタリスに含まれる「ジゴキシン」という成分は、現代においても心臓病の治療薬として使われています。美しい花の中に、医学史を動かした力が秘められているのです。 なお、ジギタリスは花も葉も茎も種も、植物全体に強い毒性を持っています。 お子さんやペットが誤って口にしないよう、この点だけはしっかりと覚えておいてください。 庭で眺める分にはまったく問題ありませんが、切り花を花瓶に活けた後の水にも毒性が移ることがあるため、その水を動物が飲まないよう注意が必要です。花言葉は「熱愛」……でも、贈り物には少し注意を
ジギタリスの花言葉は「熱愛」や「隠されぬ恋」。空へまっすぐに伸びる情熱的な花姿にぴったりの言葉です。
ただ、英語圏の花言葉では紫色のジギタリスに「不誠実(Insincerity)」という意味も加わります。これは、見た目の美しさと裏腹に猛毒を持つという「二面性」に由来するものです。 自分の庭で楽しむ分にはまったく関係のない話ですが、誰かへの贈り物として使う場合には、念のため頭の片隅に置いておくとよいでしょう。おわりに
今年のバラの季節、ぜひジギタリスを一本、バラのそばに添えてみてください。それだけで庭に縦のリズムが生まれ、「絵のような庭」への扉が開きます。
育て方のコツも、相性のよい植物も、今回ご紹介したことを少し思い出していただければ、きっと大丈夫です。 妖精が手袋を贈ったというキツネも、きっとこの花が大好きだったに違いありません。 ジギタリスとバラが初夏の庭で共演する日を、ぜひ楽しみに待っていてください。 次号では、イングリッシュガーデンのもうひとつの主役、デルフィニウムをご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。読者様からのご質問の多いバラ栽培について「バラの魔法:自宅の庭をプロの技で美しく彩る ―バラ好きのための31の裏技―」と題して書籍を出版しております。
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| メールマガジン「お花大好き!」 第1137号 | |
| 発行日 | 2026年(令和8年) 4月16日 |
| 発行者 | ガーデニングの裏技 |
| 発行人 | 並木順子 |
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