朝7時のバラは、別の花です ― 秋の一輪を、いちばん香る時間に切って飾る

2026年




メールマガジン「お花大好き」
第1163号 2026年10月15日


朝7時のバラは、別の花です ― 秋の一輪を、いちばん香る時間に切って飾る

「切って飾ると、その日のうちに首が折れてしまいます……」
「庭では香っているのに、部屋に入れると香りません……」
「せっかくの秋バラ、いつ切ればいいのでしょうか……」

咲きはじめましたでしょうか。前号で「満開まで残り10日から2週間」と申し上げた、あの花です。肥料を止め、水を切らさず、雨の前に鉢を軒下へ入れて待った10日。その答えが、今週から庭に出ています。

前号の最後に、一行だけ書いたことがあります。「咲いたら、ぜひ切って室内へどうぞ。切るのは朝のうちです」。今号は、その一行を本題にします。

同じ一輪が、切る時間で別の花になります。朝の7時に切ったバラと、昼の2時に切ったバラでは、香りのたち方も、もちかたも違います。秋バラは数が少ない花です。だからこそ、一輪を取りこぼさずに楽しみたいのです。

我が家では、アンジェラが咲きだしました。小輪の房咲きですから、一輪を切る花ではなく、房ごと短く切って小さな器にまとめる花です。切り方も飾り方も、品種で変わります。そのあたりも、あわせて申し上げます。

今号は、「いつ切るか・どの花を切るか・どう水を揚げるか・どう飾るか」の順にご案内します。道具は、バケツと花ばさみだけです。

1.なぜ、朝なのか

植物は夜のあいだ、葉から水を逃がしません。そのため明け方の株は、一日でいちばん水を含んだ状態になっています。茎の中まで水で満たされた花を切るから、切ったあとも長くもつのです。

昼に切ると、その逆になります。日が当たって葉から水が抜け、茎の中は水が足りていません。そこへはさみを入れると、切り口から空気を吸い込みます。この空気の泡が、茎の中で水の通り道をふさぎます。花瓶の水に挿しても水が上がらず、その日のうちに首がうなだれる。「首折れ」の正体は、たいていこれです。

香りも、朝が頂点です。バラの香りの成分は、気温が上がると空気に飛んでいってしまいます。日が高くなるころには、その日の香りの多くは庭にまかれて終わっています。朝のうちに切れば、その香りを部屋へ持ち込めます。

目安は、日が当たりはじめる前。夏なら5時台ですが、10月なら6時から8時のあいだで十分です。夜露が乾いたくらいがちょうどよいころです。

やむを得ず夕方に切るときは、日が落ちてからにしてください。昼間に失った水を、株がある程度取り戻しています。いちばん悪いのは、晴れた日の昼過ぎです。

もうひとつ。秋の花は、そもそも香りが深くなります。気温が下がるとつぼみがゆっくり開き、花びらが厚くなり、香りの成分をためる時間が長くとれるからです。同じ株の同じ品種でも、春の花と秋の花は香りが違います。年に一度、朝の庭でそれを確かめてください。

2.どの花を、どの開き具合で切るか

切る時刻の次に効くのが、花の開き具合です。早すぎても遅すぎても、部屋では楽しめません。

大輪(ハイブリッドティー)は、がく片が下に反り、外側の花びらが1枚か2枚ほどけたころ。これがいちばん長く楽しめます。手に取って、軽く弾力を感じるくらいです。

固いつぼみでは切らないでください。春なら部屋の暖かさで開くこともありますが、秋の固いつぼみは、切ると開かずに終わることが多いです。株についたままゆっくり咲く力で開いている花だからです。

房で咲く品種(フロリバンダ・小輪房咲き)は、房の半分ほどが咲いたとき。先に咲いた花がくたびれてきたら、その花だけを指で摘み取れば、残りが順に開きます。アンジェラのような小輪の房咲きは、房をひとかたまりとして切ってください。一輪では小さすぎて見えません。つぼみと咲いた花が混じった房を、そのまま短く切るのがいちばんきれいです。

ただし、ツルバラ・シュラブは枝を切り込まないこと。アンジェラのように枝を伸ばして仕立てる品種は、その枝が来年の花の土台です。切り花に取るときも、花のついた短い枝先だけをいただきます。冬の誘引のために残しておく枝に、はさみを入れてはいけません。

全開してしまった花は、短く切って小さな器へ。花瓶では散りますが、浅い小皿に浮かべれば2日ほど見られます。香りもよく出ます。

切る位置は、秋は浅くしてください。ここだけ、切り花の都合と株の都合がぶつかります。長い茎がほしくて深く切り戻すと、株は「次を咲かせる」ほうへ動き、冬までに固まらないやわらかい枝を伸ばします。その枝は霜で枯れ込みます。
10月なら、花首から2節ほど下まで。それで十分な長さがとれます。短ければ、短いまま小さな器に飾ればよいのです。株を越冬させるほうが、長い茎より大事です。

11月に入ったら、茎は切りません。花びらだけを摘んで楽しみます。切り花にするのは、10月いっぱいと思ってください。

3.水揚げ ― ここで、もちが倍になります

切ってから飾るまでの5分が、花のもちを決めます。手順は決まっています。

一 バケツを持って庭へ出る。水を5センチほど入れておきます。切ったらすぐ、茎の先を水に入れます。空気を吸わせないためです。切った花を手に持って庭を一周する――これがいちばんよくある失敗です。

二 下葉とトゲを落とす。水に入る部分の葉は、すべて取ります。水の中の葉は腐り、水を汚し、その汚れた水が茎をふさぎます。残す葉は、上の2枚か3枚で十分です。葉が多いほど水が要りますから、少ないほうが花に水が回ります。トゲは、取ると扱いが楽になりますが、茎の皮を大きく傷めない程度に。

三 水の中で、切り直す。これが要点です。洗面器やバケツの水に茎を沈め、水中で切り口を1センチほど切り落とします。空気に触れずに新しい切り口をつくるので、泡が入りません。切り口は斜めに。水を吸う面積が広くなります。はさみは、よく切れるものを使ってください。茎をつぶすと、そこから水が上がらなくなります。

四 深水に、1時間置く。バケツに深く水を張り、花首の下まで茎を浸けて、涼しい日陰に置きます。ここで株から離れた花に水を満たしておくと、飾ったあとのもちが変わります。急ぐときでも20分。

首が曲がってしまった花も、これで戻ります。新聞紙で花ごとゆるく巻き、水中で切り直して、深い水に1時間から2時間。多くは立ち上がります。捨てる前に、一度お試しください。

4.飾る ― 水は浅く、場所は涼しく

花瓶に移します。ここでの約束は、二つだけです。

水は浅く。5センチから7センチで十分です。たっぷり入れたほうがよさそうに思えますが、水に浸かる茎が長いほど、そこが腐って水が汚れます。バラは「浅い水、毎日取り替え」がいちばんもちます。

水は毎日替える。そのとき、茎の先を5ミリでも切り戻してください。これだけで、何もしない場合よりはっきり長くもちます。ぬめりが出ていたら、花瓶の内側も洗います。

置き場所も効きます。エアコンの風が当たる場所、直射日光、テレビや冷蔵庫の上は避けてください。どれも花から水を奪います。果物の近くも避けます。熟した果実から出るガスで、花の老化が早まります。

夜は、涼しい場所へ。10月の夜の玄関や廊下は、花にはちょうどよい温度です。昼は居間で楽しみ、夜は玄関へ。これで1日は余分にもちます。

延命剤は、市販のものが確実です。手元にないときは、水1リットルに砂糖を小さじ1、台所用の塩素系漂白剤を1滴。砂糖が花の栄養、漂白剤が水の中の菌を抑えます。砂糖だけを入れるのは、かえっていけません。菌の栄養にもなるからです。どちらか片方なら、入れないほうがよいくらいです。

5.一輪を、美しく見せる

秋バラは、数が少ない花です。一輪でも、置き方しだいで景色になります。

器は、口の狭いものを。花が1本でも倒れず、姿が決まります。花びんがなければ、ガラスのコップ、小さな徳利、空き瓶でもかまいません。

高さは、器の2倍までを目安に。器の口から上に出る部分が、器の高さの1倍から2倍。これだけで、不思議と整って見えます。茎が長すぎると思ったら、迷わず切ってください。

葉は1枚か2枚だけ添える。バラの葉は、それ自体が美しいものです。たくさん付けると水の負担になりますから、見える位置に1枚か2枚。

目の高さより、低い場所に。バラは、やや上から見下ろしたときにいちばん美しい花です。食卓、玄関の靴箱の上、洗面台。香りを楽しむなら、玄関か洗面所をおすすめします。どちらも空気がこもる狭い場所なので、香りがたまります。朝、扉を開けたときに香りに迎えられるのは、この季節だけの贅沢です。

色の違う品種は、無理に混ぜない。秋バラは色が濃く出ますから、1品種だけのほうが落ち着きます。混ぜるなら、花の形が似たものか、同系色でまとめてください。

6.残った花と、株のこと

切ったあとの株についても、ひとこと。

切り花に取るのは、株の上のほうの花だけにしてください。一株からたくさん切ると、葉まで一緒に持ち出すことになります。10月から12月の葉が、来春の最初の花をつくります。葉は、できるだけ株に残す。これは前号と同じお願いです。

株に残した花が終わったら、花首の下2センチで花がらを切ります。深追いはしません。実(ローズヒップ)は落としてください。残すと、種をつくるほうに力が回ります。

散った花びらは、拾って乾かすと使えます。重ならないように紙の上に広げ、風の通る日陰に3日から5日。乾いたら密閉できる瓶へ。香りの強い品種なら、入浴剤として一回分ずつ使えます。色の濃い品種のほうがきれいに乾きます。濡れた花びらは黒くなりますので、雨上がりのものは避けてください。

最後に、香りのこと。バラの香りには系統があり、ダマスク系(濃厚な甘さ)、ティー系(紅茶のような上品さ)、フルーティ系(果実の酸味)、ミルラ系(薬草のような甘さ)、スパイシー系(丁子のような辛さ)などに分かれます。秋は、どの系統も春より濃く出ます。朝の庭で、ご自分の株がどの系統なのか、鼻を近づけて確かめてみてください。切って部屋に入れると、庭では気づかなかった香りがはっきり分かります。

■まとめ

秋の一輪を、いちばんよい状態で楽しむために。
1.切るのは朝6時から8時。株がもっとも水を含み、香りがまだ飛んでいない時間
2.大輪はがく片が反って外側が1枚ほどけたころ。固いつぼみは、秋は開かない
3.バケツを持って庭へ。下葉を落とし、水中で斜めに切り直し、深水に1時間
4.花瓶の水は浅く5センチ、毎日替えて茎を5ミリ切り戻す。夜は涼しい玄関へ
5.切るのは株の上のほうだけ。葉は残す。切り花にするのは10月いっぱい

8月末に切り、10月に待ち、今週、切って飾る。三つの号でひとつの仕事でした。50日前にはさみを入れたあの一手が、いま花になって咲いています。

我が家で先に咲きだしたのは、アンジェラでした。香りの濃い品種ではありませんので、こちらは色で楽しむ花です。香る品種は香りを、房で咲く品種は数と色を。その株の持ち味に合わせて切り、合わせて飾る。それだけで、秋の少ない花が十分な景色になります。

秋の一輪は、春の十輪に負けません。どうぞ、明日の朝、はさみとバケツを持って庭へ出てみてください。

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切る時間、水の揚げ方、飾り方。バラには、知っているだけで結果が変わる小さな技がたくさんあります。そうした手の内を31項目にまとめました。

書名:バラの魔法:自宅の庭をプロの技で美しく彩る ― バラ好きのための31の裏技
著者:並木順子
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発行日2026年(令和8年) 10月15日
発行元ガーデニングの裏技
発行人並木順子
  
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